オセアニアの今―伝統文化とグローバル化

サモアを中心に40年以上オセアニア研究に携わっている山本真鳥さんが、オセアニアの島々の人々と続けてきた交流の中に見えてくる「風景」を余すところなくつづります。

第5回 ラグビー! ラグビー!

 オリンピック東京大会に先駆けて、本年9月20日にラグビー・ワールドカップが日本で開幕する。44日間、世界で予選を戦ってきた選りすぐりの20カ国のチームが日本に集まり、世界一をかけて戦うことになる。世界中の名だたるラガーマンの集まるこの祭典は、ラグビーファンには垂涎ともいうべき機会だ。長年ワールドカップの低位置に沈んでいた日本代表ブレイブブロッサムズは、2015年のワールドカップで奇跡的に南アフリカに勝ち、着実に力をつけてきている。とりわけ、パシフィック・ネーションズ・カップで格上のフィジーを破り、現在世界ランキング9位となったばかり。日本の入ったプールには、スコットランド(7位)とアイルランド(3位)がいるが、このどちらかを破ると準決勝進出も夢ではない。今回は来月開幕するラグビー・ワールドカップにちなんで、ラグビー選手のトランスナショナリズムについて考えてみたい。

 

ポリネシア人とスポーツ

 私がハワイに留学したのは、1978年のことである。連邦政府が東西冷戦時代に設けた東西センターという研究所である。州立ハワイ大学マノア校キャンパスに位置していて、教授クラスの研究者から、大学院生まで、いろいろなレベルの研究者を抱える、当時はなかなかリッチな研究所であった。大学院生は東西センターの奨学金をもらって、ハワイ大学の院生となり、さらに東西センターの研究活動にも参加する。研究員はセンターの奨学金で来ている人も、フルブライトなどの別奨学金の人もあり、研究所に雇用されてきている人もいた。院生たちは、ハレ・マノア(男女混合)、ハレ・クアヒネ(女子のみ)のどちらかの寮に滞在することとなっていた。ハレ・マノアの裏に、現在は大きな木が生えているが、当時は何もなく、そこにバレーボールのネットを張って、4時過ぎると院生や研究員がやってきて(ちなみにハワイの始業は8時で4時はもう終業)、そこで多国籍の研究者・院生たちが汗を流すのである。ハワイだから、ビーサンに短パンで授業・オフィスということも多く、すぐ参加可能だ。

 しかし、そこで出会ったポリネシアの国々(アメリカ領サモア、西サモア、トンガ、厳密にはメラネシアだがフィジーなど)出身の院生たちの身体能力たるや、相当のものだった。アジア、オセアニアの国々の中で、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ合衆国の院生たちは、まあ日本人と大差ない位スポーツはあれこれできる。対照的なのは、アジアからの学生で、落ちてくるバレーボールを空振りする、というのがずいぶんいて、日本人を除くアジア系がこのバレーボールに参加することはあまりなかった。しかし、ポリネシア系の人々の身体能力たるや、すごい!の一言だった。特に、お相撲さんとまではいわないが、かなり太めのがっちりタイプの男性が、ネット際でたかだかと飛び上がってスパイクを入れるのには心底驚いた。

 そして、スポーツ万能でがっちりタイプの彼らの活躍の主戦場がラグビーである。知らない人は驚くかもしれないが、太平洋の極小島嶼国、フィジー、サモア、トンガはラグビー王国として知られている。フィジーは人口89万人(フィジーは多民族国家であり、フィジー系は57%で、その他はほとんどラグビーをしないので、50万と見積もってよいだろう)、サモアが20万人、トンガが11万人というそれぞれが極小国で、ワールドカップの20国に入ることすら、驚異的であるが、いずれもラグビーが盛んである。現在、フィジーが10位、トンガが15位、サモアが16位なのである。

 それぞれが前植民地時代を通じてイギリスと縁が深く、その経緯で教育を通じてラグビーの導入が早くから行われた。また最高峰のイギリス連邦競技会に打って出るほどではないが、クリケット*1も盛んである。

 ラグビーは国代表となるのに国籍条項がない。1) 3年以上居住している。2) 国籍をもつ。3) 父母、祖父母のいずれかが国籍をもつ、あるいはもっていた。1)~3) のいずれかの条件を満たせばよい。ただし一度、特定の国代表になると、代表をやめてから3年経過しないと、他の国の代表にはなれない。このルールは、イギリス人が世界中に散らばっていた時代に、それぞれの居住国の代表となれるように制定されたと聞く。グローバル化の現代、名だたる選手を巡って、各国のプロチームの綱引きがあり、国代表の綱引きはそれと別にある。お金が動き、選手の移住がある。

 

日本の外国人ラグビー選手

 日本でトンガ系のラグビー選手の調査を行ったNiko Besnierによると、トンガ国王ツポウ4世がソロバンをトンガの教育に導入したのだが、それが縁で大東文化大学に2名の交換留学生がやってきたのが1980年のことであるという。この2名は最初ソロバンを習うはずだったが、やがてラグビー部の活動に熱が入るようになり、卒業後は、三洋電機に就職して職業団のクラブチーム初の外国人選手となった*2。その次に来たトンガの留学生2名のおかげで、大東文化大学ラグビー部は当時早明慶に支配されていた大学ラグビーを制することとなった。この2名も職業団チームに入り、うち3名はやがて日本代表の初外国人選手となる。その中でもシナリ・ラトゥ選手は、やがて日本に帰化して、「ラトゥウィリアム志南利」と名乗り、三洋ではコーチを、後に大東文化大学では監督を務めた。

 Nikoが日本で調査中に、大東文化大学ラグビー部関係のトンガ人を中心とした催しがあるので来ないかと誘われ、遅れて到着したとたんにスピーチをと乞われた。突然のご指名とあり、しどろもどろの英語でご挨拶したが、やがて選手たちは日本語で会話しているのに気づき、がっくりした。職業団チームもリタイアしたあと、外国人社員として会社でそのまま働いている人もいて、長い長いスピーチ後の乾杯など日本のやり方になじんでいる。ポリネシア系の言語は、a、e、i、o、uの5つの母音と子音(ほとんどは日本語にもある子音)を組み合わせた発音なので、彼らは日本語にはなじみやすく、会話に関してはすぐに話せるようになる。サモアで調査中も、サモア人の自動車整備士でちょっと日本にいた人は、日本語のマニュアルで修理をしていた。カタカナは簡単に読めるといっていた。

 他の大学や後に高校もそれに追従することとなり、日本の高校、大学チームに外国人選手が加わった。

 上位にいたいわゆるエリート校は、留学生を呼んでくることに抵抗があるようで、例えば大学ラグビーを支配していたといわれる早慶明、また私の勤務する法政や関東学院、同志社などは選手を留学生としてリクルートしてきてはいない。留学生を招聘しても必ずうまくいくというわけではないだろうし、いろいろ苦労はあるかもしれない。ただ如実に結果が出ているのは帝京大学で、留学生パワーのおかげとは言い切れないが、ここのところ、関東大学対抗戦でも優勝を飾ることが多いし、全国大会でも優勝することが増えている。東海も帝京ほどではないが、留学生を積極的に受け入れるようになって、関東リーグ戦で優勝するまでに成長している。おなじみの日本代表キャプテンのリーチマイケルは、高校時代に札幌山の手高校に留学し、その後東海大ラグビー部――その間既に日本代表となっている――を経て、東芝ブレイブルーパスに入団している。彼は父がニュージーランド人、母がフィジー人であり、日本で居住しプレイしているので、その3国の代表となる可能性があったが、日本を選択したということだ。

 最近は、リーチ選手と同様フィジー出身の選手も目立ってきた。しかし既にトンガ人選手のネットワークがあるため、日本にいる外国人選手の半分前後はトンガ出身、ないしは、ニュージーランド、オーストラリアに既に親の代から住んでいて、どちらかの国籍をもってやってくるトンガ系選手である。現在の日本代表のメンバーを見ると、HPに掲載されているのは32名であるが、そのうち外国出身の選手が13名。そのうち6名がトンガ系である。ただし、13名中7名は既に日本国籍を取得している。外国出身だが日本人選手だ。

 ニュージーランド、オーストラリア育ちの選手たちに比べ、トンガ在住のトンガ人にとって、留学のチャンスは大きなメリットである。そればかりではなく、ごく少額の送金も本国家族にとっては価値ある収入となる。花園大学時代にアマナキ・レレイ・マフィがトンガの親族に送金していたという記事をどこかで読んだが、あり得ることと納得した。

 私自身、ハワイで奨学金を受給しながら貧乏学生をしていた40年前、足りない部分は日本で作った貯金を取り崩して使っていたが、同じ額の奨学金をもらっていたインドネシアの友人は毎月100ドル(当時の円価で2万5000円ほど)貯めて送金するといっていた。それで父母弟妹を養っていたらしい。インドネシアで働く代わりに奨学生になり、インドネシアで働いて家族に貢献するのと変わらない、あるいはそれ以上の金銭的貢献をしていたわけである。国境を越えた賃金・物価の差によって、出稼ぎが生じ、送金が行われる。必ずしも送金目的で移住が行われるとは限らないが、故郷の家族の暮らしを考えて、節約送金することはよくあることだ。

 ジェローム・カイノは珍しくもアメリカ国籍を有しているオールブラックスの選手である。彼は、サモア独立国出身の両親がアメリカ領サモアで働いている間にそこで生まれたのでアメリカ国籍を有するが、その後家族は独立国に戻り、さらにニュージーランドに移民したので、ニュージーランド育ちである。両親が故郷に送金しながらの生活だったため、生活は大変苦しかった。現在でもある程度理解出来る範囲で彼自身も故郷には貢献しているという*3。カイノ自身は2012年から2年間、トヨタ自動車ヴェルブリッツに在籍していた。また、日本でプレイするフィジー人選手の調査を行った報告でも、故郷からの送金要望にどう応えるかが彼らの大きな悩みであることが記されている*4

 そのように、太平洋諸島出身の選手たちは、自分が好きなラグビーをプレイするという以上の意味をもって、ラグビーに取り組んでいるのである。また、彼らにとって大学卒業後に世界的に名の知れた日本の会社チームに入団することもそれなりに価値あることだ。

 世界に展開するラグビー・ユニオンは、固くアマチュアリズムを貫いていたが、1995年にプロフェッショナリズムを受け入れることとなった。解禁となる前、日本では大学ラグビーを経て、会社に就職し、会社所属のクラブの選手となる、という路線がしかれていた。現在日本では、トップリーグ全体がプロ化しているわけではなく、これまでの路線を辿る社員選手がいる一方で、クラブチームとの契約で在籍するプロ選手が混在している状態である。この路線改正により、大学を経ての育成ではなく、海外の名だたる選手を高額契約でスカウトしてチームに受け入れることが可能になった。昨期の神戸製鋼コベルコスティーラーズの行ったダン・カーター(元ニュージーランド代表)やアダム・アシュリークーパー(現オーストラリア代表)などの豪華補強はこうして可能だった。外国人選手の多くはプロ契約の選手であり、日本人選手はプロ契約もいるが、チームによっては全員社員となっている場合もある。引退後の仕事が確保されているという意味で、社員選手の制度を好ましく思う選手もいるようだ。

 日本代表の外国籍選手は、例外なく日本のトップリーグの選手となっているが、日本代表となるのに国籍条項はない。日本で3年以上プレイしていればいいのに、帰化する選手が結構いるのに驚いた。しかしトップリーグのルールというものがあるらしい。1) 他国の代表となっている外国籍選手2名、2) アジア枠選手1名、3) 日本代表、またはその可能性のある外国籍選手3名の計6名が同時出場可能となっているが、それ以上は試合に出られないのである。日本国籍を取得すれば、その枠から外れて規制がなくなる。もちろん、日本が気に入ってずっとここにいる、と決めた人もいるが、出場枠もひとつの理由なのだろう。もうひとつは、ビザの問題があるかもしれない。日本代表として他国に遠征するときに、日本国籍を有していれば手続きも簡単である。

 

オールブラックスのポリネシア系ラグビー選手

 確か2000年になって後だったと思うが、サモア国立大学の学長が来日して、日本オセアニア学会の役員と懇談したことがある。そのときちょうど日本ではラグビーの試合をやっていて、前の日に日本代表とサモア代表が戦い、サモア代表が敗れた。学長は観戦していて、「いや昨日は実に残念だった」という話になったのだが、彼はしかし最後に「でもあれはBチームなので、Aチームは勝てると思うよ」といった。彼がそこでAチームと呼んだのは、オールブラックス(ニュージーランド代表)のことだ。確かにサモアに行くと、彼らはサモア代表のマヌサモアをもちろん応援するが、マヌサモアがいなければ、確実にオールブラックスの応援をする。2011年8月にワールドカップ・ニュージーランド大会が開催されたとき、ちょうどサモアで調査中であったが、開幕戦の対トンガ戦の夜、サモアではどの家でもテレビで中継を見ていて、オールブラックスが得点するたびに、そこら中に歓声や拍手が響き渡っていた。

 それもそのはず、オールブラックスには実に多くのサモア系の選手が加わっているのである。現在HPに掲載されている約40名の中で、サモア系10名(2名はマオリ系とダブルカウント)、マオリ系6名(2名はサモア系とダブル)、トンガ系7名、フィジー系1名である。マオリ系は除いても、彼らの多くは、既にニュージーランドに移民していた父母の元に生まれていたり、幼い頃に連れてこられたりしているから多民族社会ニュージーランドの正当なる構成員である。顔写真でもって、由来を探すなど、人種主義的行為であって申し訳ない。

 チェックしていて大変おもしろかったのは、ダルトン・パパリイ(Dalton Paplii)という年若い選手である。昨年オールブラックスにデビューしたばかりで、ブルーズ*5所属。この人は苗字からいってサモア系であるが、写真を見てもあまりそれらしくはない。ひょっとすると移民3代目なのかもしれない。リンクされているブルーズ制作の映像2本を見た。

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1本は、アキラ・イオアネが、名前はどう発音するのかな、と質問している。iとiの間にはグロッタル・ストップといって、喉の奥をくっつけるような撥音が入り、i‘iとなるのが正確であるが、それは難しいので除いてある、とダルトンは答える。人によっては、プアパリイ、ペパライ、ペパリイ、パイパイリーなどと読んでしまう。いずれにしても英語しか話せない人には難しい。

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 また、もうひとつの映像もブルーズの提供で、サニー・ビル・ウィリアムズがインタヴューワーとなっている。同じサモア系だけどおまえの方が白いな、とからかったりしてから、 彼の育ったエリアやあこがれの選手などの質問の後に、名前の発音が難しい話が出て、最後に彼を「パップ、パピー(仔犬、転じてイケメン坊や)」と呼んでいる。いずれにしても軽いのりのインタヴューなので、そういう話が出ないのかもしれないが、パパリイというのはパラマウント首長マリエトアの息子格である由緒ある高位首長の称号名で、称号名の位置する村はサパパリイ(パパリイ一族)と呼ばれ、そこが最初にキリスト教の宣教師を受け入れた村である。一応ダルトンはサモアでは著名な一族の出であるが、そうした「重い」話への言及は全くなかった。

 オールブラックスは、試合前に必ずハカという儀礼的ダンスを行うことで有名である。これは先住民マオリの習慣である。南太平洋諸島のチームは、これに準じていずれもwar cryというダンスを行う。

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この映像では、トンガ、ニュージーランド、サモア、フィジーの順で紹介されている。

 オールブラックスは2011年のワールドカップ・ニュージーランド大会がピークで優勝した。キャプテンのリチー・マコウは引退するかもしれないと噂され、他にもそろそろと噂の出る選手もいた。しかし、2015年まで黄金期の選手たちがほぼ残っていて、2015年ロンドン大会でもオールブラックスは見事な優勝を飾った。たださすがに、その直後、マコウ、カーター、マア・ノヌーなどが引退し、また日本大会の前に、カイノやチャーリー・ファウムイナーも引退してしまった。新しい選手への切り替え時のオールブラックスがかつての強さを維持できるかどうか、世界中のラグビーファンが見守っている。ただし、万能のサニー・ビル・ウィリアムズ*6はまだ残っているし、若いリエコ・イオアネ*7もすばらしい。

 さて、ちょっと古い話になるが、NZ Rugby Worldという雑誌の2015年4/5月号には「パシフィックのプライド―走るに優り、持久に優り、プレイに優る」という特集が組まれている。

 ここに、ニュージーランドで活躍した過去から現在に至る印象に残る太平洋系選手のリストが掲載されている。1) ピーター・ファティアロファ(引退後はサモア代表チームの育成に努めた)、彼のみサモア代表で、それ以外はオールブラックスである。2) ブライアン・ウィリアムズ(サモア系)、3) マイケル・ジョーンズ(サモア系)、4) フランク・バンス(サモア系、ジョーンズもバンスもニュージーランド代表とサモア代表の両方を務めた)、5) ジョナ・ロムー(トンガ系)、6) ミルズ・ムリアイナ(サモア系)、7) タナ・ウマガ(サモア系、キャプテンを務める)、8) ジョセバタ・ロコゾコ(フィジー系)、9) ケヴィン・メアラム(サモア系)、10) ジェローム・カイノ(サモア系)、11) マア・ノヌー(サモア系)、12) サニー・ビル・ウィリアムズ(サモア系)となっている。10)はツールーズ(フランス)で、 11) はブルーズに戻ってきて活躍中。12)は現役である。

 

太平洋系ラグビー選手のトランスナショナリズム

 同誌に世界各国のリーグで活躍する太平洋系の選手、並びに各国代表として活躍する選手の統計が報告されている。国外で活躍する太平洋系選手は全部で632人。272人の選手がこれまで国代表を務めている。国代表は本国のフィジー、サモア、トンガがなんと言っても多く、それぞれに60~70名程度いるが、その次に多いのがニュージーランドで、40名を記録している。プロ選手は2つのグループで200名以上となっている。日本では国代表は14名であるが、トップリーグとその下のリーグで76名。多分ここには大学の選手は入っていない。ヨーロッパでは国代表となる人は少ないが、プロ選手の雇用は大きい。フランスのトップ14とプロ2部で232名、イギリスとアイルランドで78名である。フランス代表チームで目立つのはアフリカ系選手であるが、若干名のポリネシア系がいる。彼らは出身地がニューカレドニア(メラネシアにあるフランス海外領土)とあるが、おそらくウォリス・フツナ(フランスの海外準県で、住民はポリネシア系)からニューカレドニアへの移民とみられる。

 このリストの中でアメリカ合衆国は国代表2名となっているだけで、この数値は不備が甚だしい。移民国家のアメリカ合衆国に太平洋系選手が少ないわけがない。15年当時は不明であるが、現在の合衆国代表について、名前で判断する限り少なくとも12名の太平洋系の選手が在籍している。合衆国代表は、最近できたアメリカのプロリーグのチームに所属している選手が半分くらいであるが、あとはイギリスなど国外のプロチームや、スーパーラグビー加盟のチームに所属している場合もある。アメリカではるかに盛んなのはアメフトであるから、アメフトからの転向組もあり、他にバスケットボールをしていた選手などもいる。ニュージーランド出身、ニュージーランド在住の選手も若干いるが、彼らは多分、サモア系の選手であり、父母もしくは祖父母にアメリカ領サモアの出身者がいることで、アメリカ代表になるという権利を生かしているのであろう。

 アメリカ代表チームの構成は、このように実に複雑である。また所属チームがアメリカ内に限らないので、おそらく練習などには困難を抱えている。サッカーの日本代表の主力選手がヨーロッパ各国に散らばっているために、練習時間が限られるなどの問題を抱えているといわれるが、アメリカ代表ラグビーチームも同じ問題を抱えている。

 フィジー、サモア、トンガの国代表選手は、多くがフランスやイギリス等のプロチームのメンバーとなっており、アマチュアリズムでやっていた頃に比べて生活の不安はなくなったし、稼ぎはもとに比べれば数十倍になったはず*8だが、一緒に練習する時間は限られている。世界ランキングが若干下がってきたのはそういうことも関係しているかもしれない。

 南半球の強国、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカを中心にスーパーラグビーリーグが存在しているが、南半球の強国では、もっぱらこれらの身近なプロチームに所属して、国代表とプロ生活とのバランスをとっていることが多い。イギリス、フランスなどのプロチームに移籍すると、大金を手にするが国代表は離れたものと判断される。オールブラックスを引退したカーターやカイノ、ノヌーは一旦フランスのプロチームに移籍した。ニュージーランドでは、小学校でラグビーを始めることが多く、その後強豪中等学校に入って、さらに地域のアマチュアチームで活躍して、その実績の上でスーパーラグビーのチームに入り、やがて国代表として活躍する。しかし適当な時期に引退してイギリス、フランス、(ないしは日本)のプロチームに移籍してたっぷり稼ぎ、その後は後進の育成やNPO活動に打ち込む、というライフサイクルができあがっているように思う。このライフサイクルは特に太平洋系の選手に限られるものではなく、すべての選手に共通しているが、太平洋系の人々やその家族にとって選手生活は、「強く男らしい」というコミュニティの価値観をフルに満足させるだけでなく、巨万の富を稼ぐ一種のシンデレラ・ストーリーとなっているのである。

 

*1:第3回にはトロブリアンド諸島とサモア独立国のクリケットが、それぞれの文化と融合して行われていることに言及したが、東アジア太平洋クリケット評議会に所属する国もあり、太平洋協議競技会などの国際試合もある。

*2:Niko Besnier (2012) The athlete’s body and the global condition: Tongan rugby players in Japan. American Ethnologist 39(3).

*3:Spasifik, spring 2015の記事。

*4:Dominik Shieder & Geir-Henning Presterudstuen (2014) Sport migration and sociocultural transformation: The case of Fijian Rugby Union players in Japan. The International Journal of the History of Sport 31(11).

*5:オークランドとその北域を代表するスーパーラグビーのプロチーム。

*6:重量級ボクサーとしても有名であるし、セブンズ(7人制ラグビー)の選手もこなす万能選手。リオ・オリンピックの初戦(対日本戦)でアキレス腱を負傷し心配されたが、無事復帰。

*7:アキラ、リエコの兄弟は、第1回に登場した、ラグビー一家の兄弟。アキラはもっぱらセブンズの選手としてオリンピック参加が期待される。

*8:世界的なプロスポーツで選手の給料が高いので有名なのはクリケットである。日本ではなじみが薄いが、野球などよりよっぽど稼ぐらしい。サモアの首相は国民の関心をこちらに向けようと、一時サモア国内のみで通用するサモア式クリケットを禁止して、国際ルールに則った試合のみ行おうとしたが、国内では反発が強く、またサモア式に戻っている。

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